2011年12月18日日曜日

「旦那さんには実は第2妻がいた」

「旦那さんには実は第2妻がいた」
一夫多妻の本質は社会救済策、厳しい条件もある
佐藤 兼永

今回と次回は、一夫多妻制の話を取り上げる。読者の中には「イスラム教って一夫多妻を認めてるんだよね」と違和感を覚える人がいるのではないだろうか? イスラム教やムスリムを知ろうとする時に避けて通れない、理解を阻む壁の1つだろう。日本人には馴染みの薄いこの制度をどのように理解すればよいのか、を考える。さらに「イスラム教とムスリムをどう理解するか」というテーマへとつなげていきたい。そのために、まず、“歪められた”一夫多妻の話から始めよう。

イスラムの結婚には証人と婚資が必須
 日本人ムスリムの永野将司さんはブログやツイッターでイスラム教について積極的に発信をしている。彼は「脱力系ムスリム」を自称しつつも、「女性の人権の問題などについて、僕はすごく配慮してやってる」と自身のスタンスを語る。接する相手が感じる心理的なハードルが低いのか? そんな彼には、日本人ムスリムから本音と弱音の混じった相談がしばしば持ちかけられる。例えば、「断食しなきゃいけないんでしょうか? 断食ってこんなにつらいんですね」といった感じだ。

 その中には「第2妻の問題も、もちろんあります」(永野さん)。

 イスラム教上の結婚は、男性の証人を2人を立て、マハルと呼ばれる「婚資」について定めるなど婚姻契約を結ぶことで成立する。ちなみにマハルは新郎が新婦個人に対して支払うお金だ。「結納金のようなもの」と解説されることもあるが、離婚時に支払うマハルもある。しかし永野さんに相談を持ち込んだ、ある日本人女性の結婚は、この基本的な要件を満たしてなかった。

 「結婚する時に友達が1人付き添ってくれただけだから証人は1人。そしてマハルも無しでした。マハルが無かったから、離婚する時に悲惨な目に遭いました」

 「その女性は、何か分からないまま、イスラムに入らされたと言ったんですよ。イスラムに入信する時は、本人の意志を必ず事前に確認します。『あなたの意志で入信しますか?』って。またイスラムの結婚には、『この結婚はあなたの意志ですか?』という確認の作業があります。彼女の場合は、そういったものをはしょって既成事実をつくった」(永野さん)

 問題はこれだけではない。

 「もっと突っ込んで言っちゃうと、旦那さんには実は第2妻がいたという。で、第2妻の方にべったりになって、彼女には生活費も入れない生活が続いた。そして、『お前もういらないから』という感じで、離婚を言い渡した」(永野さん)

 「この旦那さんは、イスラム法に則った結婚もしてない。第2妻にべったりになるのもイスラム教的にアウトじゃないですか。で、生活費も入れないというのは、さらにアウト」(永野さん)

 ただし、このカップルは日本の民法上、婚姻関係にあった。それなら離婚に際して慰謝料を請求できるのではないか? 永野さんも当然そう考え、女性に尋ねると、別の問題が明らかになった。

 「弁護士が戦ってくれないんですよ。なんでかって言うと、弁護士にイスラムの知識が無いから、『イスラムは第2妻がオッケーなんじゃないか』ってことで戦う気がない。だからその案件に着手してくれないんです。かといって、自分で裁判戦える人って、そうそういないじゃないですか」

一夫多妻は平等に扶養することが条件
 ここでイスラム法が複数の女性との結婚をどのように定めているか見ておこう。そのために、この連載でたびたび登場している日本人ムスリムの前野直樹さんに再び登場してもらう。前野さんはシリアに留学し、イスラム法について学んだ。スンニ派イスラム法学における一夫多妻が合法となる条件について、彼に解説してもらった。硬めの表現だが、法学上の解説なので、厳密を期すため彼の言葉をそのまま紹介する。

 「シャリーア(イスラームの教え)の源泉たるコーランを参照する限り、4人までの一夫多妻は扶養面での平等を条件とした必要時の社会救済策であり、平等が無理ならむしろ一夫一婦が推奨されています(コーラン第4章第3節参照)。もう一つの源泉たる預言者ムハンマドの慣行を見れば、その家庭生活の在り方から、基本は一夫一婦であり、その後、神のご命令による様々な英知がゆえに一夫多妻となったことが分かります」


幾つかの点について簡単に確認しておこう。まず、イスラム教においても一夫一妻が基本である。そして「扶養面での平等」が条件だ。先ほどの女性のケースを永野さんが「アウト」と判断したことが、イスラム法に沿ったものであると理解してもらえるだろう。

 一夫多妻制が決して不合理な制度でないことを理解してもらうため、歴史的背景を述べておきたい。一夫多妻を認める啓示が預言者ムハンマドに下った当時、ムスリムの共同体は周辺部族との戦争で男性信者の多くが命を落とし、たくさんの戦争未亡人と父親を失った子どもたちが生まれた。当時の社会において女性が独身のままで生計を立てることは難しい。彼女たちを救済するため、妻たちを平等に扱える限りにおいて4人まで女性を娶ることを認めた。コーランにも、寡婦の救済としての一夫多妻制について記述がある。

勝手に2人目と結婚することは精神的暴力
 話を現代の日本に戻そう。東海地方に暮らす、ある日本人女性ムスリムは“第2妻の問題”についての次の見解を語った。先ほど永野さんが例としてあげた女性とは別人だ。

 「外国人ムスリムが取得した永住権を、これまで剥奪することができなかったんですね。だから、いったん永住権を取得すると、第2夫人をもらうパターンがものすごく多い。その後のことについては分からないです。今まで支えてくれた奥さんにさようならにするのか? 2番目にそばに来てもらって、1番目を遠ざけるのか? 表立って第2妻をつくる人と、隠れてする人がいるので」

 彼女も、プロポーズの時、夫に「結婚する相手はあなた1人だから」と告げられた。その夫が最近、彼女に無断で、母国の女性を2人目の妻として結婚したという。この日本人女性は現在、夫と別居している。

 女性はまた、2番めの奥さんと勝手に結婚するような家庭では、女性が家庭内暴力(DV)の被害に遭うこともしばしばだという。

 そこで無断で第2妻と結婚することとDVを振るうことの関係性を尋ねると、女性はこう答えた。「勝手に結婚することイコールDVですよね? だって一緒に暮らしている人の気持ちを考えてないわけだもん」「手で叩くだけでなくて、日常の無視、その逆の過度の愛情、そしてパートナーが嫌がり不快に思っていることに気づかないこと自体がもうDVだと思うんです」

 第2妻の問題を公に認めるのは、日本人ムスリムだけではない。前回の震災支援の話でも登場してもらった、日本イスラム文化センター事務局長のクレイシ・ハールーンさんもその1人だ。

 クレイシさんは法学者でないために、イスラム法がどのように一夫多妻制を定めているかに言及することは控えたいと言う。あくまで個人的な意見と断った上で、1人目の奥さんに無断で2人目と結婚することは、「そうすることによって家庭が壊れるから日本では避けた方が良い」と考えている。

 そもそもクレイシさんは、イスラム法が夫に要求する「妻たちを平等に扱う」ことは実行するのが難しいと言う。「不可能ではないでしょうけども、難しい道だと思います」。

 先ほどの東海地方に暮らす女性が「第2夫人をもらうパターンはものすごく多」いと指摘するのに対し、クレイシさんの見解は異なる。

 「そういった問題を抱える女性は確かにいます。ここのモスクにも時々そういう相談があります。だけど、トータル的に考えるとものすごく少ないと思います。私が知ってる範囲では多くの人がしているわけではないです」


こうした被害に遭う女性が多いのか少ないのか、主観の絡む問題で判断が難しい。そもそも一夫多妻を実践するムスリムが少ないことと合わせて考えると、「少数の限られたケースだが、相談の集まるところではよく耳にする」程度に問題は存在しているといったところだろうか。

“第2妻問題”の本質は宗教の問題ではなく、「弱い方が割を食う」こと
 それでは“一夫多妻の問題”をムスリムとの共生を図るために、どう考えるべきか? 3点を指摘したい。

 第1に、ここで取り上げたケースは“歪められた”一夫多妻であり、一夫多妻“もどき”だということだ。つまりイスラム法に基づいて実践された一夫多妻ではない。一定の条件の下で一夫多妻制が認められているため、第2妻を持ちたい男性が“隠れ蓑”としてイスラム法を利用する側面はあるだろう。日本人にもろくでもない人間がいるように、ムスリムにもイスラム教の理想に反したろくでもないムスリムがいる。

 また宗教がらみの問題ということで、イスラム教の知識を持たない日本人が立ち入りにくく感じることがある。永野さんが指摘した弁護士の話のようなケースだ。

 第2は、イスラム教の教えに則って一夫多妻を実践し、幸せに暮らしている家庭も存在している点だ。前出の、東海地方に暮らす日本人女性はこう指摘する。

 「本当に第2夫人と仲良くやっている人もいるし、第2夫人をもらわれるのが嫌なので、自分が夫の母国へ移住する人もいる。夫の母国で第2夫人になっている人もいるし、いろんなパターンがある」

 第3は、外国人ムスリムとの国際結婚における問題の構図は、「被害者としての日本人vs加害者としての外国人」に限らない点だ。

 日本人ムスリムの大久保賢さんは、埼玉県春日部市にある一ノ割モスクのイマーム(導師)を務めている。彼は、インドネシア人女性からDVの相談を受けることがあるという。

 「日本人男性と結婚してDVに遭って逃げたインドネシアの女性がいるんですよ。そういうのは日本語のメディアには絶対出てこないから、みんな全然知らない。日本人の側からだけ見て、『外国人が悪い』と言う。日本人もけっこう悪いことをやってますよ。深刻なケースでは、何かあるとすぐ殴られる、無理やり酒を飲まされる、豚肉を食べさせられる。その人は、怖くなって、最後には子供を連れて逃げた」

 ムスリムの女性はムスリムの男性としか結婚できない。大久保さんによると、このような暴力を振るう男性は大抵、ムスリム女性と結婚するためだけにイスラム教に入信した人たちだという。

 大久保さんは、ムスリムの国際結婚カップルの問題を考える時の注意点を指摘する。「弱い方が割を食うってことです。例えばパキスタン人の男性が日本人の女性と結婚する場合は、女性の方が弱者だから割を食う。外国人とか日本人とかいう問題ではない。それを見ないと『日本人対外国人の問題』になっちゃう」。








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